図面の外にある設計 – 暮しと関係をデザインする建築士の実践

第9回山梨県建築士の集い – 地域実践活動報告 2026/2/7 甲府亀屋座於
本発表の振返り記事は、こちら

スライド資料

発言原稿

Slide 1-11

Slide 1
今日は
「図面の外にある設計」
という話をします。

「山梨県建築士の集い」も、今回で9回目になります。
立ち上げの頃に、最初の数回だけ実行委員長をやらせてもらっていましたので、

今こうしてまた皆さんの前に立っているのは、
少し不思議な感じもしています。
私は日頃の、建築士活動の優先順位を、
うまく上げられなくなって、
前に出て話す機会が減っていましたので、
ちょっと寂しくなっていた……
のかもしれません(笑)。

それと同時に、
コロナ禍以降の建築士活動の難しさの中で、
皆さんの個人活動の話も、
もっと聞いてみたい、という思いが、
自分の中で大きくなってきたからです。
なので、先ずは自分の活動を伝え、
「試行錯誤している事例」を話してもいいんだ、という空気感を、
この機会に感じてもらうためでもあります。

いろんな声を聞ける場に、また私も少しずつ戻って、いけたらいいな、
そんな気持ちも込めて、今日は立っています。


Slide 2
私は、
建築士として設計監理業務をしながら、
福祉住環境コーディネーターの立場で、
山梨県立大学で、
「住居学」と「福祉住環境コーディネイト論」を受け持っています。
今年で6年になります。

学生には、
基礎概論を経て、図面を作り、プレゼン合戦を、してもらっています。
学生は、図面がうまく描けるかどうかも悩みますが、
住居を考える時に、構造、環境、まちづくりなど、様々な分野を行き来し、
「これは設計なのか?」
というところで、
本当にいろんな迷い方をしています。

その迷いが、実はとても面白い。


Slide 3
「定義をずらず」
例えば、
食卓とリビング、
配膳台と調理台、
キッチンとの距離。

少し入れ替えるだけで、
暮らしは劇的に変わったりします。

工事をしなくても、
すでに関係は動いている。

逆に、
工事をしても、
思ったほど感動的な変化が
感じられないこともあります。


Slide 4
「関係性の編集」
私はこれを、
設計だと思っています。

というより、
そう定義すると、見えるものが増える。

設計を、
特別な行為から
日常にひらくための、
ひとつの定義です。


Slide 5
工事が必要かどうかの間には、
いつもグラデーションがあります。

すぐ工事を必要とする設計もある。
しばらく様子を見る設計もある。
建築的には何もしない、という設計もある。

その判断を支えるのが、
私たちの役割だと思っています。


Slide 6
福祉住環境でも同じです。

手すりを一本つけることで、
対象者の稼働域が、広がるなど、暮らしが劇的に変わることがある。
稼働域が広がる。
つまり、
「行ける」「できる」「選べる」ことが
増える、ということです。

台所を、少し変えたら、
生きるリズムが戻り、気持ちの支えになることもあるのです。

そして、制度を使うかどうかも含めて、
自立支援を軸に判断できる設計に、つながっていきます。


Slide 7
「関係者が複数いる場」では、
個人の暮らしだけを見ると、
喜ばれない提案もあります。

でも、
家族や支援者、地域など、
複数の人が関わる場では、
小さな変化が大きな感動になる。

特に公共の場では、
こちらの視点が必要になってきます。


Slide 8
学生の提案は、
様々な前提が、現実としてあり得ない様な、設定になっていることも、たまにあります。

そのありえない設定で、必死に考え、試行錯誤している。
そこにも、私は「思いやり」と「可能性」を感じています。

私は、
正解よりも、
その思考の過程を評価しています。


Slide 9
今日、ここでお話ししているのも、
同じ理由です。

完成度の高い発表よりも、
日々の実践や迷いの話を、
もっと聞きたい。

若手とか次世代とか、
そういう区切りではなく、
「今、考えている人」の話を。


Slide 10
設計を、
図面の中だけに閉じない。
暮らしと関係を、
少しずつ編み直す行為として捉える。
使用者や、福祉関係者などが、関係性をととのえ、
必要なところだけ建築で支える。

その判断と接続を担えるのが、
建築士なのだと思っています。
それは、
建築を「つくる人」だけのものにしない、
ということでもあります。
そうした関わり方が、
建築士の社会的な役割を
少しずつ、ひらいていく。
そんなことを考えながら、
日々、試行錯誤しています。
——今日は、その入口の話でした。


Slide 11
今日お話ししたのは、
きれいに整理された事例ではありません。
まだ考えている途中で、
迷いながらやっている話です。
でも、
そういう話こそ、
次につながることが多い気がしています。
このあと、
皆さんの現場の話も、聞くことができたら、とても嬉しいです。
ご清聴がりがとうございました。